化粧品メーカーで処方士として働いている柴橋は、かねてより化粧品を調剤の形態でサービス展開できないかと考えていました。柴橋が考える理想の形は、ユーザー1人1人の肌質に合わせて基礎化粧品を処方すること。しかし、実際にはそのようにフルカスタマイズで提供することは困難です。どうにかして、ユーザーの肌に合わせた調剤を提供できる工夫はないかと、柴橋は日々検討していました。
そうしてたどり着いたのが、セミカスタマイズ形式です。これは、共通となるベースの処方をしっかりと固めることで、カスタマイズする範囲を絞り込む方法です。これならフルカスタマイズほどのコストはかかりません。さらに、強力な美容成分のみを個々の状況に合わせて処方することで、1人1人にあった効果を発揮することができます。
柴橋はここまで培ってきた処方士としての知識や経験を総動員し、多くの試行錯誤を繰り返しました。まずベース処方の中心に生プラセンタを採用しました。生プラセンタは、肌の再生力を高め、潤いを与える効果があるとされています。この効果を最大限に引き出すための、シンプルな処方を心がけました。
また、化粧品として完成させるためには、未開封で3年間腐らないようにしなければなりません。通常なら防腐剤を入れますが、柴橋はここでもこだわり抜き、いわゆる防腐剤として指定されている成分は使わず、防腐剤フリーで処方しました。
試作品ができあがるたびに柴橋は、自身や家族の肌で、実際の効果を検証しました。そして構想から数ヶ月、ついに思い描いていたベース処方にたどり着くことができたのです。
柴橋が、名古屋でブライダル事業を行うSmileStory社の代表の中野に出会ったのはちょうどその頃でした。中野は、仕事柄、美容には興味がありつつも、敏感肌でトラブルを抱えがちだったため、自身のスキンケアについては保守的でした。中野は、どうせ手をかけるなら義務感でやるのではなく楽しくやりたいと思っていました。しかし、そんな想いを叶えてくれる商品もなかったため、消極的なスキンケアを行っていたのです。
柴橋は、中野の肌トラブルの話を聞いた上で、試作品として作っていた美容液とクリームを提供しました。数週間後、それまで様々なスキンケア商品を使ってもうまくいかなかった中野から、使用後の肌トラブルもなく使用感もよく、実際に肌の調子もよくなったという報告を受けました。
これを受けて、柴橋は第2回目の試作品を作りました。今度は、ベース処方に中野の肌に合わせた美容成分を加えた、セミカスタマイズの構想に沿った化粧品でした。第2回目の試用結果も良好だったため、さらに成分を足して高い美容効果を狙った第3回目の試作品へと進んでいきました。
しかし、この3回目の試作品が中野の肌には合いませんでした。肌荒れを起こす結果となってしまったのです。これまで自身や家族に使ってもらったときは、第3回の試作品でトラブルが起きたことはなかった柴橋は、この結果に驚きました。美容成分と個々の肌には相性があることを再認識させられました。美容成分の選定ひとつで、肌のバランスが崩れてトラブルを引き起こしてしまうのです。
中野のトライアル使用は一旦ストップし、時間をおくことになりました。その間に柴橋は、もう一度ベース処方から見直すことにしました。この時のトライアルアンドエラーが柴橋のベース処方に大きな前進をもたらすことになります。
柴橋がベース処方を見直している頃、中野は自身の生活習慣を見直していました。肌トラブルの原因が美容液と美容クリーム以外にもあるのではないかと考えたためです。
柴橋との出会いによって中野の美容への興味が強まっていました。中野は女性の美しさについて勉強し、スキンケア分野だけでなく、女性のホルモンバランスの変化による影響や、生活習慣が美容に与える影響なども重要だと考えるようになったのです。
中野はまず、基礎化粧の前段階であるクレンジングや洗顔の仕方、その回数やタイミングなど、普段行っているケアについて見直しました。また、食生活についても意識を払い、脂質を抑え、できる限りお肌の幸せにつながる食物を摂るように心がけました。
スキンケアと生活習慣の見直しにより肌トラブルもおさまってきた中野は、新しくできた第4回目の試作品にてトライアルを再開します。この試作品は、柴橋が原点回帰してシンプルな処方を行ったものでした。
この試作品では、これまでで一番良い結果を得ることができました。さらに微調整を加えて、現在の調剤コスメのベース処方と美容成分にたどり着いたのです。
実はこのとき、別の意外なことが起こっていました。中野が使用を中止していた試作品を母親が持ち出してこっそり使っており、目尻やおでこの乾燥による小じわが消えていたのです。その変化は、母親が自身の勤め先で同僚から「プチ整形でもしたの?」と尋ねられる程のものでした。
中野経由でこの報告を受けた柴橋は、調剤コスメ実現への気持ちをさらに強くしました。
調剤コスメのサービス企画を含めたユーザーテストを実施するため、中野は、自身が運営するママコミュニティメンバーに対して、クローズドでワークショップを開催することにしました。このワークショップでは、スキンケアについての悩みを聞き、それに対してアドバイスをしたり、それぞれの肌の悩みに合わせてサンプルを提案していくものでした。参加者からのユーザーフィードバックを元に、中野と柴橋は、調剤コスメサービスを固めていきました。
初めに決まった商品構成は、美容液と美容クリームの2つに絞り込んだ基本セットです。忙しいママ世代の女性を中心にヒアリングを行ったこともあり、スキンケアの時間をできるだけ短くしたいという要望が多かったのです。使うのは美容液と美容クリームの2つだけ。柴橋の処方が実現した、たった2つだけで狙った美容効果を十分に発揮できる商品セットは、お肌のお手入れの手順を減らします。忙しい女性でも手軽に美肌を手に入れられる、そんなコンセプトをかなえる商品構成です。
ユーザーの声から生まれたのは、商品構成だけではありません。ブランド名やどんなデザインコンセプトにするか、どの容器だと使い易いかなど、全てユーザーの意見を取り入れながら決めていきました。
ワークショップは回を重ね、ユーザーの累計参加者数が100名を超える頃には、mellow labというブランド名や、パッケージデザインなども固まっていきました。
ワークショップを行っていく中で、ユーザーにとって「香り」もとても大切なスキンケアの要素であることがわかりました。好きな香りを選んでもらうという機会を作ると、そこがもっとも参加者が盛り上がる時間になったりもしました。
好きな香りの化粧品を使うと効果が高まるというデータもあります。義務感で行うスキンケアより楽しめるスキンケアを目指したいという中野の想いをサービスに盛り込むことにもつながりました。
2023年4月1日に、mellow labの商品が店頭に並びました。正式にブランドリリース、店頭で販売するところまでたどり着いたのです。化粧水やクレンジングなど、スキンケア商品のラインナップも強化してほしいというユーザーの要望もありましたが、まずは最低限かつ最重要の美容液と美容クリームの2つに絞ってのリリースです。
1人1人に合わせて調剤を行うフルカスタマイズ方式では、受注生産になるため納品までのリードタイムがかかり、工場への負荷が高くコストに跳ね返ってきます。しかし、柴橋が考案したセミカスタマイズ方式を取ることで、フルカスタマイズと同等の美容効果を狙いつつも、手に取り易い価格で、店舗で購入してすぐお持ち帰り頂けるようになりました。
調剤コスメ「mellow lab cosme」の特徴を3つにまとめるとこうなります。
① 処方士がこだわり抜いて生み出したベース処方
② お肌の幸せ診断を参考に自身にあった成分を選べる
③ 自分がアガる好きな香料で日々のスキンケアを楽しめる
柴橋と中野が出会ってベース処方のトライアルを開始してから半年、柴橋の最初の構想段階からは1年以上が経過しました。ユーザーの声も反映しながらこだわり抜いて作り上げたmellow lab cosmeのサービスが、より多くの方に届き、喜んで頂けることを願っています。
もちろん、2人の探求はこれで終わりではありません。これからもサービス利用者からのフィードバックを受けながら、美容成分の調整やサービス体験などもアップデートし、女性が美しく、幸せになるお手伝いをしていきます。
日本調剤コスメ協会 (JDC)
Japan Dispensing Cosmetics Association
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